ハラスメント対策は個人レベルでも
ハラスメントの防止策として、厚生労働省から「職場におけるハラスメント対策マニュアル」が発行されており、各企業は、それに準じた対策が設けられています。
事業主トップからの方針の明確化、就業規則を設けること、相談窓口の設置、問題が発生した後の対処方法などがそれに含まれます。
ただし、これは企業によって差があるのが現状で、厚生労働省のホームページによれば、「予防・解決に向けた取り組みをしている企業は52.2%にとどまり、特に従業員99人以下の企業においては26.0%と3割を下回っています。」
(https://www.no-pawahara.mhlw.go.jp/foundation/statistics/)
その現状を踏まえるなら、まだまだ企業としての対策は追いついていないと言えます。
そうであるなら、ハラスメントの被害者にも加害者にもならないために、個人レベルでの対策も心得ておかなければなりません。
どのように、個人レベルで、ハラスメント対策ができるでしょうか。
まず大切なのは、「嫌(いや)だ」という自分の気持ちをはっきり表現すること。
セクハラもパワハラも、加害者側は、相手は嫌がっていることに気がついていない、という場合も多く、問題をエスカレートさせる一つの要因となっています。
ただ可愛がっているつもり、期待していただけ、というのが加害者側のスタンスです。
もし、セクハラを受けても、その場を笑ってやり過ごしたり、やんわりと嫌がる素振りを見せるだけでは、加害者から見ると「喜んでいる」とか「照れている」と解釈されるかもしれません。
また、上司や先輩からのパワハラを受けながらも、さらに自分を追い込んで頑張り続けてしまうなら、自分の指導に間違いはなかった、と勘違いし、ますますパワハラが悪化するかもしれません。
もちろん、社会人らしい段階的な意志表示をしつつ、それでも収まらないなら、セクハラのような性的な嫌がらせの場合は、きっぱりと「やめてください!」と断固拒否し、可能ならその場から逃げる、などの言動が効果的です。ある場合には、大きな声で周りに聞こえるように言ってみるのも良いでしょう。勇気がいることですが、性犯罪へも至りかねない状況から自分と相手を守ることにつながります。
パワハラを受けた場合も、自分がどう感じているかについて、タイミングを見計らい、穏やかにかつ正確に伝えることが大切です。
少し仕事が落ち着いている時に、「今、少しよろしいですか」「今度お時間のある時にお話ししたいことがあるのですが・・・」などと前置きをしながら、相手に受け入れる余裕がありそうな時を選ぶことができます。
伝えるチャンスが訪れたなら、感情をコントロールしつつ、相手を責めるのではなく、自分が何をどう感じていたのか、どのような表現に傷ついたのかを具体的に話すことができます。もし、本当に、ただただ部下に期待するあまり、言い過ぎてしまった、ということであれば、加害者側にとっては、ハッとさせられる気づきの機会となります。
誠実な人であれば、自然と謝罪や反省の言葉が出てくるでしょう。
そこまでの反応が見られないとしても、いくらか状況が改善する可能性はあります。
もう一つできることは、信頼できる人に相談する事です。
これは、単に誰かの悪口や愚痴を言うこととは違います。一人で抱え込めるような問題ではありません。
信頼できる友人や同僚に話すことで、自分の中に抱え込んでいた重い荷物を下すことができます。そして一緒に運んでもらうことができます。
解決への糸口を見つけることができたり、いざという時に、助け舟を出してくれるかもしれません。
身近に相談できそうな人がいない場合には、公共の相談窓口を活用することもできます。
もし、同僚で様子がおかしいと感じることがあるなら、「最近体調はどう?」などと気遣いの言葉を掛け合うことも大切です。
日頃からの滑らかなコミュニケーションは、ハラスメント対策の第一歩となり得ます。
もちろん、ハラスメントは職場全体、社会全体で取り組む必要のある大きな問題です。
ですから、個人での努力には限界があり、うまく対処できなかったとしても、それで自分を責める必要はありません。
企業としてのハラスメント対策がなされたとしても、形だけになってしまうこともあり、実際にその対策が効果を上げ、ハラスメント撲滅につながってくるのには相当の時間がかかることでしょう。
その間、私たちも何もしなければ、次々とハラスメントの加害者と被害者を生んでしまいます。できることを、個人レベルでも努力することで、小さなハラスメントを大きくしないですむかもしれません。
ぜひ、同僚や友人、家族といった個人間レベルでも、ハラスメント対策を意識してみませんか。